0405 web electro index 0809
古本担当を呼ぶと、必ずミツイがでてくるから、晃平はミツイを特別呼ばない。今更、と思っているところもあるし、別にミツイじゃなくてもいい、と自分に言い聞かせているところもある。
本当は、ときどき、人恋しいときに、ミツイがいてくれたらとふと考えるときがある。薦めてくれた本を読んだ感想とか、ほかの本の話でもいい、徒然に話すことが出来たらいいのに、と。
正直言えば、ミツイといると楽しい。就職で都会に出てきた晃平は、地元以外に友人は少なく、今の会社も小さいために同期というのがほとんどいない。先輩たちには「文字通り」可愛いがられているが、既婚者も多く、飲みに行ったりすることも少ない。そんな晃平にとって、ミツイは気軽に話せる友人のようでもあった。少々、行き過ぎたことをするのが問題だったが。
でもその日、古本をクリックしても、なかなか人が出てこなかった。回線でも混んでいるんだろうか、と晃平が思った途端、「ちょっと離しなさいよっ」と言う叫び声と共に、アイドルのように可愛らしい女の子が現れた。最後まで形にならない手を、「もうっ」と言いながら引っ張って出すと、晃平を見てにっこりと笑った。
「毎度ご利用ありがとうございまーす。古本担当のユエです。よろしくね」
ふわふわにカールした茶色の髪が腰ぐらいまで伸びていて、よろしくね、と小首を傾げただけでもふわりと大きく揺れた。大きな目に、長いまつげ。ピンク色の唇はふっくら、つやつやとしている。晃平の好みではないが、完璧な美少女だ、と思った。
「晃平くんでしょう?一度会いたかったのよー」
ユエはそう言って、晃平の手を握るとぶんぶんと振った。その手も白く小さく、ピンク色の爪は可愛らしい。
「えーと、一度会いたかったって……?」
どうぞ、と椅子を勧めると、ありがとう、と座る。服装はやはりミヤコと同じで、薄い青緑のワンピースに、赤いスカーフだ。
「晃平くんったら、今コミュニティでは有名なの。ミツイとライオネルのどっちが落とすかしらーって」
なんだそれは、と晃平は思い切り不機嫌な顔をした。本人のいないところで、勝手なことを言わないで欲しい。
「ミツイがご執心でしょ?さっきだって、自分が行くってうるさかったんだから」
それで時間が掛かったのか、と晃平はため息をついた。サービスに関する苦情は一切受け付けません、と書かれたトップページが思い出される。
ユエは立ったままの晃平を、無遠慮に眺めていた。確かに、男にしては可愛らしい。ミツイは美人好みだと思っていたのに、少々意外だった。押しにも弱そうなのに、web electroきっての誑しの二人が未だにものにしていない、と言うのも興味がある。ライオネルは一度きりだそうだが、それにしてもあの手の早いライオネルだ。どうやらあのヨーゼフも気に入ってるらしい、とも聞いている。
「あの、何か飲みますか?コーヒーならすぐ出ますけど」
これは、晃平の癖だ。ミツイが来ると必ずコーヒーを淹れる。自分も良く飲む晃平は、サーバーでおとすから、味はそれほどまずくないはずだった。それで、ミツイが美味い、と言ってくれることもあって、サービス担当が来るとついつい飲み物サービスをしてしまう。
ユエは一瞬惚けたかと思うと、すぐにきゃらきゃらと笑って、面白ーい、と言った。
「晃平くんってば噂どおり。うん、頂きます」
何がどう噂なのか聞きたかったが、とりあえず晃平は二人分のコーヒーを淹れた。
「いつもそうなの?」
コーヒーを淹れている晃平の背中に、ユエが話し掛ける。晃平が何がですか?と聞くと、担当にいつもコーヒー淹れてるの?と答えが返ってきた。
「まあ、飲みたいと言われれば」
ほとんどミツイなのだが、墓穴を掘るようだったからそれは言わない。答えながら、ユエの前にカップを差し出す。
「ありがと。優しいんだね、晃平は」
呼び捨てられるのも、慣れた。どこか間違っている気がしたが、晃平はあまり細かいことを気にしないことにしている。
「優しいわけじゃないですよ。俺も、多分淋しいんだろうし」
恋人と別れてからは、こんな風に部屋で誰かとコーヒーを飲むなんて事もなくなった。休日も誰かと遊んだりすることが多かった晃平は、きっと自分は淋しがり屋なのだと思っていた。
だから、このweb electroのサービスに出会って、嬉しかった。夜中でも、気兼ねなく誰かと話が出来るのはありがたかった。
「淋しい?」
ユエが柔らかい雰囲気で聞き返した。そんなことを素直に言ってしまう晃平が、可愛いと思った。それから、なるほどね、と思う。
なるほどね、これはミツイがここに息抜きに来たくなるわけだ。
「こんなに人が一杯いるのにそんなこと思うのは可笑しいけど」
「一杯いるから、かも知れないでしょう?」
「そうかもしれない」
都会には、こんなに人がいるのに、自分が淋しいときに傍にいてくれる人はいない。恋人とか、そんな特別な存在ではなくてもいい。でも、ふいに誰かに会いたいと思ったときに、呼び出せる人間が晃平にはいないのだ。
何か母親か姉のように微笑んで自分を見ているユエに気付いて、晃平はすっと目線をそらせた。知らず、甘えているような気がしたのだ。
「えっと、それで、今日の探し物なんだけど」
少し照れ加減の晃平はやはり可愛い、という形容が一番似合っていて、失礼ながらユエは笑いを止められなかった。母性本能をくすぐるタイプだ、と思う。
「はい、お伺いします」
「何かね、ぼーっと眺められる写真集みたいなものないかなあ、と思って。あんまり高くないもので……」
アイドルのものとかじゃなく、と付け加えて、晃平は思い出したようにコーヒーを啜った。
「そうですねぇ。それなら……」
何か言いかけて、ユエは眉根を寄せた。それから、頭を何度かぶんぶんと振った。晃平は、突然のユエの変化に、思わずきょろきょろと辺りを見回してしまった。もちろん、何もない。
「あーもうっ、煩いわよ。はいはい、わかったわよ。ちょっ……やーよ。誰が代わるもんですか。あんたは自分の仕事しなさいよ。ほら、呼び出しかかってるんじゃない?」
ユエは眉根を寄せたまま、そんなことを大声で言っている。それから徐に晃平を見ると、にっこりと笑った。
「ごめんなさい。煩いのがちょっと回線に入ってきて。えーと、写真集だったわね」
「あ、うん。え?今のって?」
「出てくるのは原則一人だから、担当同士で話せる回線があるのよ。ほら、もっと詳しい分野の人もいるわけじゃない?ちょっとしたアドバイスを貰ったりね」
ユエは早口でそう言いながら、可愛らしい布のバッグを手繰り寄せた。花柄が雰囲気に合っている。
「写真集は結構得意だから、まあ別にアドバイスなんていらないんだけど。えーと、とりあえずこの辺りはどうかしら?」
そうユエがバッグから出したのは、B5判ほどのあまり分厚くない本だった。
「わりと最近の人ばかりだけど……。この二冊、『花火』と『うたたね』は川内倫子さんの作品で、色がなんともいえず懐かしい感じ。ぼんやりと見るなら、花火のほうがオススメかな。こっちは新刊だけど蜷川実花さんの『acid bloom』。昆虫の気分で、って著者が言っている通り、花のアップが綺麗な写真。人物がいいなら……」
「うーん、人物より風景かなあ」
ぱらりぱらりとページを捲りながら、晃平はそう首を傾げた。どうもいまいち、お気に召していないらしい、とユエはその様子から感じ取る。これはやはり……とさっきの煩い声を思い出した。
「そう。それなら……」
そう言って出したのは、雑誌だった。青い、波が表紙を飾っている。
「へーえ。波ばっかりだ」
雑誌って言うのも面白いね、と晃平は言いながら、ぱらぱらと写真を見た。晴れた日、夕暮れ、大きな波、サーフィンをする人が小さく写っているもの、と見事なまでに波ばかりが写されている。
「Relax、っていう雑誌の企画なんだけど、ホンマタカシさんの「New Wave」ね。値段も手ごろで、雑誌感覚でって言っても、本当に雑誌なんだけど、ぱらぱら見られるところもオススメね」
晃平はそのユエの説明を聞きながら、値段も確かめたところで、これにしようかな、と言った。
ユエは心中、苦笑した。自分だって、思いつかなかった訳ではない。でも、絶対勧めろ、とわざわざ回線を使って割り込んできて言ったのは、ミツイだった。その本がしっかり晃平に気に入られた辺りに、ユエは笑うしかない。
そのユエの様子に、晃平は首を傾げた。ユエはそれに気付かない振りをして、お買い上げありがとうございます、と頭を下げた。それから、やはり、と思い返して、にっこりと笑って口を開いた。
「それね、ミツイご推薦なの。やーねぇ、しっかり通じ合ってるのね」
からかうようにそう言うと、晃平が驚いて固まったのがわかった。
「ミ、ミツイ?」
「そう、さっきのお邪魔虫。晃平なら絶対これだって、力説されて」
くすくすと笑うユエは、本当に可愛らしい。でも、晃平はその事実になんだか脱力してしまった。やっぱり、ミツイは仕事ができる。イメージしていた壁紙と違う、と言われて、張り直しさせられそうになった自分とは大違いだ。柄物の壁紙は、張られて大きくなると変わるから気をつけるように、と先輩に言われていたのに、そこをフォロー出来ず、結局副支店長に出てきてもらう羽目にまでなった。客の我侭は日常茶飯のことだが、自分の客のフォローも出来ないのは情けない。
そんな今日の自分の失態を思い出して落ち込みそうになる晃平に、ユエは余計なことを言ったかしら、と少しばかり笑いを引き攣らせた。これは、早く退散した方がいい気がする、ともう一度頭を下げて、「コーヒー、美味しかったわ、ごちそう様」とお礼は忘れずに、消えていく。
ふわりと柔らかそうに髪をゆらしながら消えていくユエに、彼女だって……とまた考えては落ち込みそうになる自分に、晃平はため息を吐きながら、手元に残った写真集をぱらりと捲った。
朝日なのか夕暮れなのか。オレンジ色に染まった海は、どこか、とても切ないと晃平は思った。
玄関のドアを開けて、ただいま、と言っていたのは一人暮らしを始めた最初の数日だけだった。癖のようなその言葉を言うと、どこか淋しさに覆われることに晃平はすぐに気がついた。
今は、もう当たり前のようにそんな言葉は言わなくなった。実家に帰ったときにその言葉を口にすると、照れくさくなるくらいには、馴染みのない言葉になってしまった。
「疲れたな……」
呟いたら最後、どっと疲れが押し寄せるのをわかっていながら、晃平は思わず口に出していた。一緒に、ため息まで出てくる。
冷蔵庫からビールを出すと、一気に煽る。帰りがけにコンビニで買ったお弁当は、開ける気にならない。ビールを持ったままベッドに腰掛けると、もう一度、ため息が出てきた。零さないようにと気をつけながら、ごろりと横になる。それからしばらくぼんやりと、低い天井を眺めていた。
―――仕方がないですよね。
そう残念そうに言った、若い夫婦の声が蘇った。将来ピアノ教室を開きたいからと防音の効いた壁と窓、グランドピアノを置いても大丈夫なように補強された床を設計に入れたら……他の余裕がなくなってしまった。土地から買った若い夫婦で、いくら旦那が稼いでいても、ローンも限度がある。奥さんのお腹の中には子供がいて、その子供のことも考えなければならないだろう。だから、他のところは多少気に入らなくても、予算を優先するしかないのだ。
照明も、壁も、床も。
たぶん塗装まで、色々制約が出るだろう。そう、それも仕方がないのだ。それでどれだけ満足の行くものを建てるか、それが営業の腕の見せ所のはずだった。
でも、と晃平は思う。
照明機器や左官の業者は、その度に組むのではない。取り引きがあって、だからそこにも仕事を回さないとならない。だから、他の安くて良いもの、なんて探しようがなくて、決められたリストから選ぶしかないのだ。
それが、モデルハウスというものだと、晃平だって頭の中ではわかっている。
ただ、そうやって諦めていく仕事をしたいわけではないのだ。
ごろりと寝返りを打つと、机の上のパソコンが目に入った。それをじっと見つめて、晃平はベッドの上に起き上がる。
愚痴とか、弱音とか、吐くところじゃない。
でも、誰もいないのだ。同期入社で同じ営業はいない。先輩には、きっと色々諭されるだろう。でも、今はただ聞いて欲しい。それだけでいいのだ。弱音だと、わかっているから。
重い身体を引きずるように、晃平はパソコンの前に立った。そして、初めて、ミツイの名前をその検索窓に打ち込んだ。
「久しぶりだな。それも晃平からの検索呼び出しは初めてじゃないか?」
ひゅっと現れたミツイは、にっこりと嬉しそうに笑った。決り文句も挨拶もない。ぼんやりと立っていた晃平は、その変わらないミツイに、深々とため息をついた。すでに呼んだことを後悔しそうだ。
「あのさ、前から思ってたんだけど」
すっと伸びてきた手を避けながら晃平が言う。避けたのに、ふわりと頬に長い指が触れた。それだけで満足したように、ミツイはにっこりとまた笑って先を促す。
「なんで俺だってわかるわけ?」
「そりゃあ、晃平のことをひたすら想って……」
「この間のユエさん?彼女だってわかってたじゃないか」
いかにもミツイが答えそうだと思っていたせりふで言われて、晃平は呆れた。
「なんだよ。今日は可愛くないなあ」
「可愛くなんてなりたくないよ」
ふいっと顔を逸らされて、そこでようやくミツイは今日の晃平はどこかおかしい事に気付いた。どこか、覇気がない。ようやく指名で呼んでくれたと浮かれていたのは、失敗だ。
「お客様ナンバーがあるんだ。俺は晃平のナンバーを覚えてるから」
ふいにミツイの声が優しくなった気がした。晃平がちらりと横を見ると、思ったより真摯で優しい目とぶつかる。晃平は急に居たたまれなくなって、コーヒー淹れるから、とキッチンへ逃げ込んだ。
その薄っすらと赤くなった晃平の耳元から視線を外せないまま、ミツイは顔が綻ぶのを止められなかった。意識している。どこかじゃれあっているとしか思っていなかったのだろう晃平が、自分のことを意識しているのだ。
でも、今日はそもそも晃平はおかしい。この間ユエが、ちょっと余計なこと言っちゃったかなあ、と心配していたから、それを引きずっているのかもしれない。
「ミツイさ、仕事まだ終わらない?」
キッチンから、晃平が遠慮がちに聞いてきた。らしくない。まったく、晃平らしくない。
「今日は、あと一時間で一応上がりだけど。別に晃平となら残業しても全然大丈夫」
そう言うと、少し困ったような、頼りなげなような、いかにもそれは狼の前でしていはいけない顔だろう、とミツイが思うような表情で、晃平が何か投げた。
ぱしりと受け取ると、ビールの缶だった。
「ここにいる限り仕事かも知れないけど……付き合えよ」
口調は命令調なのに、顔は懇願しているようだった。これで断れる人間が見てみたい、とミツイは内心ため息をつく。
「わかった。いいよ」
web electroの良い所は、仕事をきちんとこなしていれば、大した文句を言われないことだ。もちろん、こういった事は自己責任になる。それで仕事に支障を来たしたり、誰かに迷惑をかけたら、即刻減俸またはクビだ。だからミツイも、酔うほどまでには付き合えない。でも、晃平もそこまでは求めていないとわかっていた。ただ、一人で飲みたくなかったのだろう。
投げられた衝撃で泡が出ないようにと気をつけながらプルトップをゆっくり引く。晃平はほっとしたような顔をして、自分はさっさといい音を立てて缶を開けた。
「晃平が投げるから」
「ん?ああ、ごめん……いや、いっそうのこと泡が飛び出したら面白かったのに」
晃平はそう言って、イシシと意地悪げに笑う。
「そうしたら、このスーツは濡れて使えなくなって、俺は晃平の家に泊まりだな」
「なっ……」
艶やかな顔でそういわれて、晃平は危うくビールを噴出すところだった。
「誰が泊めるかっ」
「だって、ビールの匂いをさせて戻るわけにいかないでしょ?」
料理や酒担当ならともかく、古本担当がビールでは言い訳がない。まあ、あまり必要もないのだが。
晃平は自分の我侭につき合わせていると思っているから、途端に大人しくなった。
「いや別に、酔わなければ平気だって。特にお咎めなし。俺もビール一本ぐらいじゃ酔わないし」
俯いていた顔を上げさせようと、ミツイがその顔に手を伸ばした。くいっと顎を上げさせると、どこか泣き出しそうな顔をした晃平がいた。
そういう顔を見せるのは反則じゃないだろうか。
ミツイは思わずごくりと唾を飲み込みそうになる。
普段気が強いだけ、頼りなさそうな、泣きそうな晃平は―――艶やかで目に毒だ。
「晃平、何かあった?」
つっと顎から指を滑らせるように離して、ごくりと誤魔化すようにビールを飲む。
「別に」
晃平はふっと顔を逸らして床に視線を移した。ミツイの優しい目が自分を見ていると、見えなくてもわかる。
ずるい、と晃平は思う。
晃平が欲しいと思う本をいつでも必ず探してくれる、仕事の出来る男は、その上こうして自分の我侭まで聞いくれるのだ。そして、少なからず晃平に安堵をもたらす。
そんなのは、ずるい。
晃平に出来ないことを、どうしてこうも簡単に出来るのだろう。
「波の写真集、気に入ったんだ?」
ミツイがテーブルに置かれたその雑誌を取り上げた。何度も捲った後が見える。一人で飲みながら、これを眺めていたのだろうかと思うと、ひどく淋しくなった。
「ああ、波だけなのに、どこか落ち着けるから」
言葉が少ない。それに、声が暗い、とミツイは目を眇めた。
「俺も好きで、一冊持ってる」
「そう言えば、それもおまえが勧めたんだっけ?」
「あ、ああ。あの時はユエに先越されたからなあ。折角の晃平との逢瀬なのに」
「何が逢瀬だよ」
「写真集って聞いて、晃平だったら絶対これ、って思ったんだ」
会話はしていたが、顔をずっと俯けたままだった晃平がのろりと顔を上げた。
「晃平……なんて顔してんだよ」
泣き出しそうだ、とミツイは思った。いや、泣いている、と。
「なんて顔って……普通だろ。ちょっと酔ったかもしれないけど」
折角持ち上がった顔がまた逸れていくのを引き止めようと、ミツイはすっとその頬に手を伸ばした。
「ミツイは、どうしてweb electroで働いてるんだ?」
頬に触れた手を振り落とさずに、晃平が言う。そ温かくて大きな掌が、どこか安心できた。
「まあ、一番自分に合った仕事だったから、かな。他に就職先なかったし」
「求人で出るのか?」
「いや、ほとんど勧誘みたいな感じで担当は増えていくみたいだけど」
担当は元客、がほとんどだ。何度かサイト利用をしているうちに、仕事をしてみないか、というメールが来たり、人事担当がサービス担当と一緒に現れたりする。
「なんだ。じゃあ立派に引き抜きだな」
自嘲気味の笑みに、ミツイは再び目を眇め、その顔を上げさせた。
「晃平……?」
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