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ゲーム


03

 ゲームは三日目の午前中までと賭けたヨシュアは、賭けには負けた。三日目の午後になってもまだ、彼自身も残っているのだ。
 クリスは二人分の任務を果たした後、三日目の午前中に撃たれている。キースもサキもまだ残っていて、クリスは少し面白くなさそうだった。
 サキはノーマンを倒して、新しい任務を手に入れていた。標的は、キースだ。
 キースとクリスは、ヨシュアと最も気心の知れた友人たちだと思われたが、いや、だからこそ、サキは二人に馴染むことがなかなかできずにいた。
 二人とも、いい奴だとサキは思っている。でも、サキとヨシュアの関係を知っているかもしれない、とも思うその恐怖が、常にサキには付き纏っていた。
 いや、きっと二人は知らないだろう。
 サキは前を一人で歩くキースをじっと見つめた。無防備に見えるが、キースのことだから油断は出来なかった。やるなら、隠れ場所の多い寮に入ってからの方がいいだろう。サキはそう思って、ふらふらと自分も歩く。今日は、専攻の違うヨシュアはいない。本当は、帰って少しでも眠っておきたかった。
 連日のように、繰り返される饗宴。
 ヨシュアにとっての、饗宴だ。さんざんに泣かされ、吸い尽くされるのは自分のほうで、最後に意識を飛ばすのも、サキだった。体中のあちこちが痛く、だるいのにも慣れ始めている。もともとひ弱そうに見えるサキは、青白い顔をしていても、気にされないのだ。
 始まりは、覚えている。
 春だったか、それとも暖かかっただけの冬の日だったか、サキは道端で遭った同じ年頃の少年たちに、暗い倉庫に連れ込まれて、犯された。
 そのときの痛みも、屈辱も、いまではあまり覚えていない。ただ、コンクリートがいやに冷たく、窓から差し込む美しい光があったことだけは覚えている。遠く、視界の隅に。
 それから、門限ぎりぎりに夜になって帰ると、ヨシュアがひどく心配していた。でもサキは、放っておいて欲しいとだけ言うと、シャワーを浴びてベッドに潜り込んだのだ。
 何も考えたくなかったし、ヨシュアが近くにいることが憎らしかった。少年たちは、どうやら彼の親派に頼まれたらしいことを言っていたのだ。
 それが、ヨシュアの所為ではないと、サキはわかっていた。分かっていたからこそ、ヨシュアとは話したくなかったのだ。
 ただ、同室だと言うだけなのに。
――サキ、本当に大丈夫?
 分かっていたのだ。ヨシュアには相応しくないことは、こんなことをされなくても。
――頼むから、寝かせて。
――でも……ねぇ、どこにいた?
――ヨシュアには関係ない。
――……やつらに、何かされなかった?
 少し迷った末のその問いに、サキはさすがに布団から顔を出した。真剣な顔のヨシュアが、覗き込んでいた。おそろしいほど整った顔に、サキはどきりとする。
――やつらって……
――わざわざ、教えに来たのがいる。
――じゃぁ、もう知ってるだろ?
――サキ、
――寝かせろって。
――わかった。でも、次は俺に言って。
 そう言うヨシュアに、サキはわかったと適当に言って、再び布団に潜り込んだ。そのときは、それで終わったのだ。
 でも。
 ヨシュアは相変わらずサキに気軽に声を掛けた。それを嫌がっても、嫌がらなくても、相手にとっては同じことで、サキは再び、今度は親派の連中そのものに狙われる羽目になったのだ。ただそのときは、どこから聞き込んだのか、ヨシュアが駆けつけて、最悪の事態は免れた。
――なんで知らせないんだっ。
――知らせる暇なんてあるわけないだろ。
――サキッ
――平気だよ。男だし。減るもんじゃないし。
 サキはいい加減、この馬鹿げた事態にうんざりしていた。子供っぽい、嫉妬の視線。その末の、短絡的犯罪行為。もう、うんざりだ、と思った。
――そういう問題じゃないだろ?
――あのなぁ、もう放っとけよ。元はと言えばお前が俺に構うからだろう、こんなことになってるのは。
 それは違う、と思っているのに、サキはイライラした末にそう言ってしまった。音となってしまった言葉は、もう取り戻せない。そんなことは、よく知っているのに。
――だから、同室も拒否したわけ?
 ヨシュアがそう言っても、サキはもう答えなかった。自分に対する苛立ちと、でも理不尽さと。そういうものを、サキは持て余していた。
――そうだよ。とにかく、もう俺に構うな。それと、やっぱり部屋替えしてもらおう。それで平和になるってもんだろ。
 サキがそう言うと、ヨシュアは、じゃぁ、と言った。
――じゃぁ、俺の気持ちはどうなるんだよっ。
 ヨシュアはそう言いながら、突然サキの腕を掴むと、ベッドに押し倒した。突然のことで、サキは声も出せなかった。
――なんだよ、それ。
 サキはそう言ったのに、ヨシュアは聞いていなかった。ひどく冷たい目をして、サキの両腕を縛り上げて自由を奪うと、抵抗するサキを犯し始めた。
 その日からだった。
 ヨシュアは夜になると、サキを犯す。それは次第にエスカレートしていき、今ではサキは娼婦のようだった。
 親派からの嫌がらせは、ぱたりと止んだ。
 それでもこれでは、同じ事ではないかと、サキは思っていた。

 キースは後ろを気にもせず、寮に入っていった。サキたちの専攻クラスは早く終わっているために、人はあまりいない。サキはまるで本当に暗殺者になったような気分で、そっとキースの後から寮に入った。足音が響かないように、靴を脱いで廊下を歩く。片手には靴を持ち、もう片手にはダートガンをしっかりと握った。
 階段を上がったところで、ふと足音が途絶えて、サキは壁に背を預ける。急いで靴を履き、それから、そっと廊下を覗いた。
 いる。鍵を開けているところだ。
 サキは何気ない風に、そのキースのもとへ歩いて行った。
「やぁ、サキ。どうしたんだ?こっちにいるのは珍しいな」
 サキとヨシュアは二階の廊下で結ばれた別棟に部屋があるから、確かにサキはあまりこちらにはこない。
「ちょっと用事があって」
 サキはにっこりとそう笑うと、おもむろに、隠し持っていたダートガンで、キースを撃った。にっこりと、笑ったままだ。
「任務完了。キースの任務を貰おうか」
 サキはそう言って、手を差し出した。
「なんだ、サキだったのか」
 キースはそう言いながら、苦笑した。サキは、あまりこんな風に大胆に狙ったりしてくる方ではなかったので、多少驚いた顔をしている。サキはサキで、意外にあっさりとキースを仕留められて、少し驚いていた。
「はい、じゃぁ俺の任務」
 キースはそういうと、鞄から紙を取り出した。サキがそれを開く。
『ヨシュア』
 白い紙の真中に、確かにそう書かれていた。サキは、心臓がどきりと鳴ったのを聞いた。
「気をつけろよ、あいつも手ごわいからな。サキは賭けもかかってるだろ?」
――仕留めろよ、必ず。
 キースがそう言う。サキはそれに、ぼんやりと頷いた。



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