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加速する日々 03

「離せっ」
 和倉がそう小さく叫ぶと、友江は目を細めた。その表情に、和倉はますます怯える。男同士で、どうするかは知っているが、やりたいと思ったこともなければ、されるなんて想像したことも無かったのだ。
「だから、大丈夫だって」
 友江はさも可笑しそうにそう言う。それから、ふいと腰を屈めて、布越しに膨らんだものを舐めた。和倉は、その微かな刺激に思わず喉をそらす。友江はそのまま容赦なく、チャックを下ろすと、すでに立ち上がりかけたものを取り出した。
「元気だな」
 友江が上目使いに和倉を見ながら笑う。それがいやに妖艶で、和倉は思わず唾を飲み込んだ。その途端、先端を少し舐められて、声を上げる。友江はさも可笑しそうに、笑いながらそれを今度はすっぽりと根元まで口に含んだ。静かな屋上に、粘着質な音が響く。和倉は堪らなくなって、かしゃりと音をさせながら、金網に寄りかかった。それから、ずるりと腰を落としていくと、コンクリートの上に座り込む。友江はその間中も口を離すことなく、丁寧に舐めていた。
 卑猥な音に、和倉の荒い息が重なり合って、和倉の意識を混乱させる。その目に映るのも、夕陽に輝く金髪の髪に、深く優しい、紫色の空だった。これは夢だ、と和倉は考えるが、快感は確かなものだ。
「さて、俺がやるんじゃつまらない、と言ったよな」
 滴る唾液をぺろりと舐めながら、ふいに友江が顔を上げた。きらきらと光るその唇を、和倉はじっと見つめる。
「教えてやるから、ちゃんと俺を虐めろよ?」
 からかうようにそう言って、友江は鞄をごそごそと漁って、クリームを探し出した。こんなのしかないな……と言いながら、それを和倉に放り投げる。見ると、ハンドクリームだ。
「今日はそれでなんとかしよう。さすがに俺も傷つくのも痛いのも嫌だからな」
 そう言って、友江はズボンを引き摺り下ろす。もう少しでいくところだった和倉は、まだ元気にぴくぴくと動いていた。それを友江が、小さな動物でも可愛がるようにするりと撫でる。
「俺のも舐めてよ。その間に準備するからさ」
 友江のその言葉を、和倉は一瞬理解できなかったが、すぐにそっと手を伸ばした。舐めるのはごめんだった。だから、その変わりとでもいうのか、両手でそっと包み込む。
 友江は小さく笑うと、クリームを手にして、自分の後ろを弄りだした。それがひどく非日常的な光景で、和倉はまた、眩暈のような混乱を覚える。
 自分が一体、何をしているのか、理解できていない。目の前にいるのが誰なのか、わからなくなってきている。
「次はお前がしろよ。ローション持ってきてさ」
 友江が少しだけ掠れた声でそう告げる。和倉はだんだんと残虐的な気持ちになってきて、思わず友江を押し倒すように後ろへ倒した。それから友江の手を退けて、ゆっくりと自分の指をその後ろへと滑り込ませた。
「ばっ……クリームつけろ」
 友江がそう、顔を歪める。確かに中はそこそこ柔らかくなっていたが、乾いた和倉の指は、滑りが悪かった。
「少しぐらい痛いほうがいいんじゃねえの?」
 和倉がそう言うと、友江がゆっくりと目を閉じて笑う。
「マゾじゃないんだからさ。お互い気持ち良い方がいいんだけどね。まあ、虐めの一環としてなら、確かにらしいけど」
「ふーん……マゾなのかと思ったよ」
 和倉がそう言って、指を二本に増やした。それから、その指を中で絡ませるように動かすと、友江が甘い喘ぎ声を上げた。その声に、和倉の勢いが増す。
 和倉は、男相手に勃つとは思っていなかった。それなのに、自分の下でよがる友江に、自身がさらに固くなるのがわかる。はやく、おさめたいと思う。
 友江の喘ぐ声に吸い寄せられるようにその首筋に唇を押し付けると、和倉は笑いながらそこをゆっくりと舐めた。
「熱いな……」
 そう、囁く。ようやく自分のペースになった気がして、和倉は安心していた。それが、友江に導かれたものだということを、無視して。
 和倉はもう一度にやりと笑うと、指を引き抜いてすぐに自身を穿った。友江の身体が跳ね上がる。優しくなどする必要が無いのだと、今や和倉はわかっていた。
「くっ……きつ」
 思わずそう言うと、友江が笑うのが見える。ひどく意識的に、締められているのがわかる。それに引き込まれないように、対抗するように動くと、今度は友江が小さく悲鳴をあげた。
 辺りはもう、暗くなり始めていた。そのぼんやりとした空気の中で、くちゃくちゃと卑猥な音と、二人の荒い息が響く。
「ひ……っぁ」
 角度を変えながら友江の中をかき回すと、小さな声がもれ聞こえて、和倉を夢中にさせた。それでも容赦なく締め付けてきて、和倉はやばいと頭の隅で考えた。
 たぶん、自分はこの遊びに捕らわれる。
 友江がどうして自分をこんな遊戯に誘ったのかはわからないが、これでは自分の形勢不利になる。そうわかっていても、和倉にはもう、止める術がなかった。
 もう声も出せずに、二人はただ早くなる呼吸を繰り返す。友江がすっと手を伸ばして、身体を起こした。そのまま、密着させるように抱きつくと、立ち上がったものを和倉の腹に擦りつける。密着が深くなった分、友江は敏感に反応して、和倉をやわやわと締め付けては吸い上げるようにした。その友江の動きに、和倉は頭が真っ白になって、自分が弾け飛んだのがわかった。
「まあまあだな」
 ほぼ同時に、ほんの少し遅れて果てた友江は、そう言って笑った。和倉はまだ、その友江の中だ。
「人の制服汚しておいてよく言うな。どうしてくれるんだ?」
 二人の間で果てた友江の残骸は、和倉のシャツとネクタイに飛び散っている。幸いにも、はだけられたジャケットは、あまり被害を受けていない。
「仕方ないだろ。それとも、逆が良かったか?」
 友江がそう笑って、ずるりと身を引いた。そのときに、わざと絞るようにしたために、和倉はまた、自分が反応するのがわかる。でも、それを何も無いように、ズボンをずり上げて、チャックを閉めた。
 今からなら、まだ駅前に沙耶はいるかもしれない。そうしたら、この熱は、沙耶におさめてもらおう。そんなことを考える。
「冗談じゃない。虐めるのは、俺だろう?」
 その言葉に満足したように、友江が笑った。また、煙草を取り出して、どこか遠くを見ながら吸い始める。じっと見ても、それから視線は、合わされることはなかった。まるでもう、用は無いとでも言うようなその態度に、和倉は小さく唇を噛みながら、出口へと向かった。
 ドアを開けて振り返ると、闇に沈んでいくように、友江の輪郭がぼやけた。ただ、その口から立ち上る紫煙だけがいやにはっきり見える。
 そう言えば、靴はどうするのだろうと、和倉はふと思った。


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