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加速する日々 06
暗くなりかけた教室に、くすくすと嫌な笑い声が響く。無邪気で、悪意のこもった声だ。
「あ、油性で書くから下にまで写ったじゃん。俺が書こうと思ったのに」
「いいだろ、別に。あ、それとも破く?」
和倉はその声を聞きながら、窓際の机の上に座ってぼんやりと外を眺めていた。校庭で、陸上部の生徒がもくもくと走っているのが見える。
「かずくらー。お前は何も書かねーの?」
生徒の一人がそう言ってくるが、和倉はちらりとその机の上のノートを見るだけで、首を横に振った。白いページに、黒々と太い字で、「バカ」と書いてあるのが見えた。
「最近何もやらねーじゃん、お前。何?内申でも気にしてんの?」
沖がその机から離れて、和倉の方にやってくる。
「そんなんじゃねーよ。まあ、飽きたってところ」
ウソではない、と和倉は思う。どうせ虐めるなら――
ふとそう考えて、和倉はまた視線を外に移した。考えるだけで、下半身が疼きそうになる。たった一度しか抱いてないというのに、その快楽をきっちりと身体は覚えている。
どっちがやられてんだかわかんねーな。
和倉はそう思って、軽く唇を噛んだ。少し馬鹿にされたような、それでいて妖艶な友江の目を思い出す。あれから、和倉はつい友江の方を見てしまうことがあった。ときどき、その目が一瞬合って、あのにやりと誘うような表情をする。
友江が何を考えているのか、和倉には全くわからなかった。このまま誘われるように、友江と再び関係を持つべきかどうかも、わからなかった。
でも。
和倉はあの快楽を忘れられずにいる。あれから何度か、狂ったように沙耶を抱いて、訝しがられもした。それなのに、収まらない熱。
「飽きた……ね。それで?新しい遊びでも見つけたのか?」
沖は勘がいい、ということを和倉は忘れていた。食えない奴で、友江虐めも楽しんでいるというより、他人に合わせているという感じがあったのを思い出す。
「別に」
和倉はそれだけ言うと、時間だから、と立ち上がった。これから、塾があるのだ。
優等生のお嬢さまとお坊ちゃま。
友江がそう笑ったのを思い出す。面白くない。和倉は、まったく面白くなかった。
「ふーん……こんなとこにも使われてない教室があったんだ」
がらがらと戸を開ける音がして、友江が入ってくるのを確認すると、和倉は鍵を投げて戸を閉めるように言った。友江はしばらくその鍵を手の中で弄ぶと、にやりと笑って鍵を閉めた。
「煙草、持ってるんだろ?」
和倉は床に座ったまま、そう手を伸ばす。友江は興味深そうにその和倉を見ると、鞄から煙草を取り出して放り投げた。
放課後の第三校舎は、人がいない。昼間でも、使われている教室は少ないのだ。長い間使われていないのか、二人のいる教室は埃臭かった。
和倉は煙草に火を点けると、美味しそうに煙を吐き出した。落ち着こうと、無理に無表情を作る。既に下半身が、反応し始めているのだ。
ガキじゃないんだから、と思うが、友江のきっちりと身に付けられた制服にさえ煽られているのがわかる。それがどう乱れるか、和倉にはわかっているからだ。
「早く来いよ。何したらいいのかわかってるんだろ」
和倉がそう言って友江を見ると、本人はにやりとした表情を崩さずに、鞄を机に置くと和倉の足元に近寄って跪いた。それから、細い指でそのズボンのボタンを外し、チャックを引く。少し膨らんだ布越しに舐めると、それが一層容量を増した。
「汚れるだろ、バカ。直接やれよ」
和倉は精一杯冷静さを保ってそう言うと、煙草を深く吸い込んだ。
どうやったら、この男を泣かすことが出来るだろう。
そればかり、考える。泣いて、懇願する、その姿をどうしたら見ることが出来るのか。
狭い場所から解放されて、元気良く飛び出た分身を、いきなり咥えられる。和倉は思わず目を閉じて、なんとか湧き上がる衝動を堪えた。
少し年上のOLと付き合ったことがある和倉は、経験がないわけではない。でも、沙耶は決してこんな事はしないし、友江はなにより上手かった。舌と頬を使って、巧みに舐めあげる。
「……汚すなよ。全部飲め」
そう時間が掛からないうちにいきそうになって、和倉はそんな言葉で優位を保とうと必死になる。友江が笑ったような気がして、和倉は唇を噛んだ。そのまま、思い切り欲望を友江の口に吐き出す。
「お前……痛い思いしたいのか」
ひとまず波を超えると、和倉は悔し紛れにそう言った。その言葉に、ふと友江の表情が変わるのがわかる。怯えているわけではない。どこか、そう、狂ったような目だった。
ぞくり、と背筋が冷えたのがわかる。
初めて和倉を誘った友江も、こんな目をしていた。
どこに、誘っているのだろう。
同じ、狂気に――?
「さっさといった奴がよく言うな。それとも、お前早漏か?」
友江がくすりとそう笑ったのが聞こえて、和倉はかっとしてその友江を押し倒した。そのまま、一気にズボンを下着ごとずりおろす。いったばかりの分身を手で数度扱くと、何の用意もしていない友江に突き立てた。
「……っ」
さすがの友江の顔が痛みに歪む。狭くて、一息には奥まで入らない。
「痛い目にあいたいなら、あわせてやるよ。こうされるのが、望みなんだろ?」
和倉はそう言いながら、無理やりに突き入れる。ぬるりとした感触に、血が流れたのがわかった。痛みに、冷や汗を浮かべる友江の顔を見つめる。
もう、戻れないかもしれない。
同じ狂気を、自分も持っている。
苦しげな友江の顔を見ながら、その顔に煽られている自分に、和倉は恐怖を覚えた。
虜になる。
無表情を崩すことに、きっと自分は虜になってしまうだろう。
和倉は二度目の絶頂を感じながら、もう、捕まったのかもしれないと思っていた。
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